2010年06月13日

June 12, 2010

 

数学の素晴らしさ

 

一筋の歴史を辿って

 

中神 祥臣

 

私達に身近な事柄が,数学の言葉を使って記述されると,強い説得力をもち,誰も否定することはできません.数学で記述された内容が理解ができたり,身近な事柄が数学の言葉を使って表現されたりすると,「わかった」という強い充足感が得れます.ピタゴラスは数学のこのような特性を神の言葉のようにして教団を立ち上げました.しかし,ピタゴラス教団は閉鎖的であったために,ピタゴラスの死とともに消滅してしまいました.学問が閉鎖的であってはならない最初の教訓でした.その後,プラトンが紀元前 5世紀に開いたアカデメイアは開放的であったために, 6世紀に東ローマ帝国に閉鎖させられるまで続きました.プラトンの弟子であった,アリストテレスは論理学を確立し,それを用いて,それまでに知られていた様々な学問を大きな体系にまとめ上げました.その後,その成果は中世まで,イスラムや西欧の社会における学問の権威として,大勢の知識人に受け入れられました.現在から見ても哲学的には優れた内容に満ちていますが,自然科学に関しては現在と違い,宇宙は不活性な地球を中心に等速で回転し,月より上は神の国で不変であるが,月より下はわれわれ人間の社会で変化に富んでいるというものでし.アリストテレスより前のアリスタルコスは地球は太陽の周りを回っているといいましたが,当時の人達の直観と相容れず受け入れられませんでした.その後,人類の行動半径は,羅針盤の発見などを通じて,陸上だけでなく,海上にも広がってゆき,意識の世界もギリシャ時代とは比較に成らないほど豊になって行きます.ルネッサンスの比較的早い時期から,ロジャー・べーコンのように,アリストレテスの学問に懐疑的人物がでてきます. 14,5世紀になると宗教改革などを通じて,優秀な宗教人を育成する教育機関がヨーロッパ各地に設立され,優れた人材がでてきます.当時の教育はギリシャ以来の影響もあり,初めは,文法,修辞学,弁証法,幾何学,算術,天文学,音楽の七科目から始められました. 16世紀になると,そのような中から,コペルニクスが現れ「天体の回転について」を発表し,ユークリッド幾何や,球面幾何の知識を用いて,地動説の理由を縷々語っています.これは,思索を通じて人間解放を告げる歴史的な書物になりました. 16世紀中頃には,機械論者である数学者ガリレイが誕生します.それから 7年後にはケプラーが誕生します.ともに地動説の支持者です.ケプラーも数学者として活躍し「宇宙の神秘」の記述を,観測資料で確認するために,天体観測の第一人者であるチコ・ブラーエの下へ行き,そこで得られた火星の観測データを解析する中で,第一法則(惑星は楕円軌道を描く)と第二法則(面積測度は一定である)を発見をします.その説明理由として,太陽と惑星の間には霊という引力が働いていると考えました.その少し後に,今度はガリレイが望遠鏡を作って,月にはクレーターが沢山あることや,木星には4つの衛星があることを「星界の報告」で発表します.これら真実を告げる書物は,伝統的学問や宗教の権威との間に軋轢を生み始めます.既にケプラーの叔母は魔女狩りにあっていましたし,母親も晩年その嫌疑を掛けられます.ガリレイはついに宗教裁判に掛けられます.ヨーロッパ中世は,自然科学で真実を語ることが生命を脅かされる時代でした.その噂を聞き,若いデカルトは自分の発言に細心の注意を払っています.ここで少し元へ戻りますが,コロンブスが航海を通じて発見した磁石の軸の傾きは, 1600年になるとギルバートの「磁石論」へと結実し,地球は磁石であることが広く認識され,地球は活性した対象であることがわかってきました.ケプラーはこの事実を知り,太陽と惑星,惑星と衛星の間に働くのは,霊ではなく力が働くものと考えを進化させ,第三法則(惑星の回転周期の二乗は軌道の長半径の三乗に比例し,その比例定数は惑星によらない)を発見します.それまでの,月より上の神の世界は初等幾何の世界でしたが,ケプラーの法則により,時間とともに変化するダイナミックな世界であることがわかりました.解析学(力学)の誕生とみてもよいでしょう.その後,ニュートンはケプラーの三法則を元に,万有引力の法則と微積分を発見し, 1687年に「プリンピキア」にまとめ上げました.これは強力な法則と理論で,それまで説明できなかった,潮汐現象,地球の形状,黄道における春分点と秋分点の移動などが,新たな幾何学的対称性として説明できるようになりました.しかし,ガリレイもデカルトも,明晰に説明できない引力というものを許容せず,自分たちの立場から潮汐現象を説明しましたが,ともに観測事実の説明には不十分でした.地球の形状に関するデカルトの議論も事実と違っていました.この後,自然科学が真に自立できるまでには,近代民主主義の誕生と平行して 100年位を要します.当時はケプラーもニュートンも磁力と重力は別のものであると考えていました.しかし, 20世紀の初頭に発見された量子力学の研究を通じて,力は重力,電磁力,弱い力,強い力の四種類があり,これらを統一して論じる理論が在るはずであると考えられるようになりました.弱い力というのは,原子核の回りに電子を引き留めている力です.強い力というのは原子核を作り上げあげている力です.今から 25年位前に電磁力と弱い力が統一されました.弱い力と強い力も統一できそうですが,重力に関しては力がとても弱いために,いくつか理論が創られても,今のところそれらを実験で確かめることはできていません.ニュートンは万有引力の法則を発見したときに,万有引力定数は決められないと考えていましたが,凡そ 100年後にキャベンディッシュが実験によりその値を求めました.そのお陰で,私達は様々な惑星や衛星の質量を知ることができるようになりました.ですから,重力場の統一も夢ではないと思います.

 

最後に同窓会から記念にいただいた万年筆をありがとうございました.いつも,自宅の机の上においてあり,手紙などを書くときには,いつも愛用させていただいております.



sugakudososugakudoso at 09:07│コメント(0)トラックバック(0)

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